大学のキャリア教育授業はどうやって作られているのか(2) ― 学生との関係性

2019年11月13日 野浪 晶子

前回の記事は、大学キャリア教育の授業について「内容や授業運営の仕方」という点から書いてみました。今回は、学生との関係性についてです。なお、私は教育学のスペシャリストではありません。実践現場で奮闘する講師の立場でこれまでの経験や思うところを書いてみようと思います。2019年8月の記事もご参考に。

1.「軍隊を作るつもりか」と言われた

「学生を怖がらせて指導している人がいるみたいだけど、軍隊をつくるつもりか?って、言いたくなる」―それぞれ違う学部の先生方にそう言われたことがあります。

キャリア教育関連の授業を受け持つ教員・講師の中には、時折、学生に対して高圧的な態度や言葉遣いで学生に接する方がおられます。とはいえ、「学生が憎くて」とか、「学生が嫌いだから」このような対応をするわけではなく、逆に「学生のことを思って」のことのようです。

実際の話を少しぼやかしてお伝えしますが、たとえば、合同授業で一学年数百名が大教室にいるとき。学生がざわざわと私語をしていると、必要以上にヒステリックに怒る。くどくどとお説教をする。

あるいは、ゲストスピーカーが来校して話すときに、寝ていたり聴くときの姿勢が悪かったりしたために、「美しくないです。それでは〇〇にはなれませんよ」と怒る。クラスコントロールの話になると、「自分の授業では、私が厳しく叱るから、寝たり私語をしたりする学生はいない」と得意そうに語る方も。こう考えると結構な頻度でお会いします。

学生のなかには委縮してしまったり、帰り道で当該教員の悪口を言ったり。高圧的な言動に不安を覚えて相談してくる学生も。学生のことを思っての言動が、学生には届かないことがある。苦痛に感じることがある。そんなふうに感じました。

授業中は、たしかに私語のないほうがいいかもしれませんが、学生は本来うるさいもの…じゃなくて、にぎやかなもの(笑)。まわりの学生に影響がある場合や寝ている場合は、私も注意を促します。なかには授業が進めづらいほどの問題行動を起こす学生もいて、対応に苦慮することもあります。

しかし、”必要以上に相手を委縮させて言うことをきかせる”ことになんの意味があるのでしょうか。大学で非常勤講師となったときから、常々疑問に思っていました。

 

2.学生と教員、互いの信頼

一方で、学生と良好な関係を築いている先生もいらっしゃいます。

A先生は、学生に対しても私たち講師・教員に対しても丁寧に接し、学生の面倒もよく見られています(ちょっと「お世話しすぎ…」な気がしなくもないですが)。学生の様子や言動から、A先生を信頼していることがよくわかります。A先生の話では、それほど授業対応で困ったことはないとのことでした。

また、B先生は、100名ほどの授業にもかかわらず、マイクを使わないで授業を行います。多少の私語はありますが、B先生が話すときは、学生が先生の言葉に耳をすまし、静かになります。学生が真剣に向き合いたくなる問のつくり方や、問に集中させていく場づくりも上手な先生です。

C先生は、前回の授業後に学生が提出するリアクションペーパーに書かれた質問をいくつかとりあげ、授業の冒頭に答えておられました。その熱意がすごいのです。授業に出ている学生数名に訊くと「授業に来るのがいつも楽しみ」と口をそろえて言っていました。先生の熱意と、学生の期待。バランスが取れているのでしょうね。

A先生の授業は直接見学する機会はなかったのですが、3人の先生方に共通しているのは「学生を信頼し尊重する姿勢が、授業や学生指導にも出ていること」「学生もそれがわかっていること」なのではないかと感じました。そういった関係性で進む授業ですから、教育目的もしっかりと果たされ、学校からも厚い信頼を得ているようです。

3.いい授業ってなんだろう

大学では、半期ごとに授業の受講生を対象としたアンケートを行います。アンケートは「無記名でその授業内容や、担当教員の熱意、進め方等について学生が評価を行う」もので、どの大学でも行われています。一般的な形式は、10個ほどの質問に5段階で回答する形式のほかに、自由に記述できる形式が組み合わせられているものです。

下の画像は実際の授業評価の記述式の部分。教務課が取りまとめて講師・教員ひとりひとりに返してくれます。概ねいい内容でありがたいのですが、この記述欄では、私の「学生に対するあり方」が学生にどう評価されているのかまではよくわかりません。

ちなみに、本論から少しそれますが、「『ライフデザイン講座』という授業は就活のための授業ではない」とシラバスでも授業内でもはっきり明言しているのに、就活に役立つと感じると、評価が高くなる傾向があるようですね。この科目は選択科目で、受講する学生は就活や将来といったキーワードにエッジが立っている子たちが多いので、それはそうなのかもしれません。でも、「就活に役立つ授業だから、教員がいい」とはなりませんからね(笑)

 

「必ず記述欄に授業の感想を書いてほしい。いいことも悪いことも受け止めるので」と伝えて学生に書いてもらったもの。教務課さんは、誤字脱字も含めて原文のまま書き起こしてくれます

「いい授業」を構成する要素はいくつもあると思いますが、「学生が授業に集中し、学びと自然に向き合える」ようにするには、授業内容や方法だけでなく、学生とどんな関係性が築けているのはおおいに関係があるでしょう。

いい授業が実現できるような「教員のあり方」はどういうものなのか、これまでいろいろと試行錯誤して8年目です。いまは大学の授業評価制度を使わなくても、学生が自由に授業への要望を伝えられるような関係性を築きながら授業を進めていくことを目指しています。

どうしたら学生が学びと向き合えるか。「いい授業」とは何がそろっているのか。こういった問題意識に対してみんなで考えたり、手法があるなら学んだり。そんな大学の教員や講師を対象としたワークショップや講座があるといいなと思っています。

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/