大学のキャリア教育授業はどうやって作られているのか(1) ― 授業内容を考える

2019年10月01日 野浪 晶子

今回は、大学キャリア教育の講師の仕事についてです。「キャリア教育の授業って、どんなことをしているの?」と訊かれたり、「大学生を教えるのは大変じゃない?」などと言われたりすることがあります。私の初回記事でも似たようなことに触れているのですが、今回は授業内容に絞って書いてみます。

1.シラバスづくりは四苦八苦

現在の大学キャリア教育は、就職支援対策等の授業に偏りがちで、社会理解と自己理解の解釈が「やや限定的」である、と5月の記事でお伝えしました。

「では、どういう内容だといいのか?」と訊かれそうですね。たとえ同じ科目名の授業だとしても、さまざまな要素が絡むので一概に「これがいい内容だ」とは言えないのですが、キャリア教育科目か就職対策科目かを問わず、私の授業では社会理解と自己理解の両方をできるだけ同時に行うことを目指しています。

まだまだ試行錯誤の段階ですが、実際に私がいま担当している大学の授業を例に見ていきましょう。あくまで私のつくり方ですので、ご参考程度に。

4年制大学の学部横断型・選択科目となっているこの授業。1年次の秋学期に開講する「ライフデザイン1」と、2年次以降が選択できる「ライフデザイン2」があります(科目名は仮名です)。依頼元のキャリアセンターからは授業目標だけを共有し、シラバスづくりや授業教材づくりなどすべてをお任せいただいています。

今年の前期(4月~7月)に開講された「ライフデザイン2」は、「社会人となる自分と向き合うこと・社会理解」が授業目標です。

「社会人となる自分と向き合う」「社会理解」をどのように捉えるか ―

この問いの正解はありませんからね。1年目に行ったシラバス(*)作りでは、仕上がるまでにだいぶ悩み、時間がかかりました。

*シラバスとは、授業スケジュールや科目の授業目的などが表示されているもの。学生は各科目のシラバスを見て履修科目の選択をします

2.授業内容をキーワードにすると

15回にわたる授業内容をざっと出してみると、こんな感じです。

「時代の変遷と働き方」「LIFESHIFT」「働く意味」「若年雇用問題」「夢との付き合い方」…

すべての授業が終わった後に、「印象に残った授業」を学生に訊くと、「若年雇用問題」「夢との付き合い方」「働く意味」などに多くの声が集まりました。

たとえば、若年雇用問題では、「入社3年以内に大卒者の3割が離職する」という傾向を取り上げてグループワーク。想像以上にいろいろな意見が出るのは、学部横断型の授業ならではかもしれません。それぞれの学部の学びからのアプローチで考えていく様子も見られて、私も興味深かったです。

また、「夢との付き合い方」は、児美川孝一郎教授の著書(『夢があふれる社会に希望はあるか』KKベストセラーズ、2016)がヒントです。いくつかのデータを集め、学生に提示。夢についていろいろな角度から考えてもらったり、児美川教授が考える「夢との正しい付き合い方」について語り合ってもらったりしています。

 

なお、扱うのは授業目標でもある「社会」をテーマにしたものですが、最後は自分事に落とし込んで考えてもらい、これを簡単な「自己理解」としています。

日ごろから授業ネタとなる情報や文献を探していますが、社会動向を把握しておくことはもちろん、美容院で何気なく読んでいた雑誌から引用したり、身近な題材から授業につなげたりすることもあります。

 

グループワークの様子。便宜上、白く紗をかけています

3.授業は生き物!

シラバスに沿ってデータや記事を集め、スライドやワークシートを作る。毎週、この作業の繰り返しです。

時にはデータがうまく探せなくてあたふたしたり、スライドを作ったもののしっくりこなくて、修正を重ねたり。頭の中は、さながら差し入れた画像素材(*)のように、いろいろな考えを持つ私が何人もいて、企画会議をしているかのようです(笑)

さらに、授業の最後に書いてもらう感想や意見などを見ながら、シラバス自体を修正することもあります。

1回の授業構成は、こちらからいろいろな問いを出し、「個人で考える→グループで語り合う→全体シェア」を基本とし、これを繰り返します。合間にレクチャーを挟むこともあります。

授業最後の時間で出欠確認も兼ねたシートを配布します。授業に対する感想や、いくつかの質問について考えて書いてもらって終了…だいたいこのパターンになるでしょうか。ちなみに、自分でシラバスやテキスト作りを行わず、借り物で行う授業のときも、同じような構成で行うことが多いです。

グループワーク時の学生たちは、ほんとによくしゃべります(笑) 笑い声が起きたり、自然に拍手が起きたりすることも。教室の一番後ろに座っているグループは、見た目がかなりハデハデさんなんですが、活発な意見のやりとりをしていて感心したことがありました。当たり前ですが、見た目で判断してはいけないですね。

授業のタイムスケジュールはあまり綿密には作りません。グループワークや全体シェアが盛り上がったり、学生から思いもしないところから質問が出て説明することになったりもするからです。時には、予定していた内容がすべて終わらずに、次にまわすこともしばしば。授業はまるで、生き物みたいだな、と思います。

内容も大事だけど、学生とどのような関係性を築いていくのかも大事だと思っていますが、1記事目安の2000字を越えたかな…この先はまた次回にしましょう!

*この記事に出てくるものはあくまで私のやり方です。世の中にはたくさんの良い授業事例があります。切磋琢磨できる仲間がいると嬉しいです
*今回の画像は、acworksさんによる写真ACからお借りしました

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/