社会人大学院での経験を振り返る(2) ― いまの仕事にいきていること

2019年08月26日 野浪 晶子

前回の記事では、大学院の科目履修からスタートし、体力・気力ともになかなかハードな大学院生活だったことをお伝えしました。

大学のキャリア教育関連授業は、どういう内容がいいのか」と「学生に対する自分のあり方」という2つの問題意識に対する解は、直接的には得られません。授業や指導で教わるわけではないからです。卒業から3年たったいま、その解はどうなっているでしょうか。今回は、社会人大学院での経験の後編です。関心のある方、どうぞおつきあいくださいませ。

1.インパクトが強かった「修論のインタビュー」

大学院に行ってよかった!と感じたことはいくつもあるのですが、なかでも「キャリア教育の “前” に『教育とはなにか』という問いに向き合ったこと」は何にも代えがたい経験です。

修士論文(以下、修論)のテーマを考えるために“自分の過去の掘り下げ”を行ったことで「教育」というタグが自分に付いていたことに気づき、このプロセスもいい経験でしたが、とくに修論調査のためのインタビュー経験がこの問いと向き合うきっかけになったと感じます。

私の修論テーマは、大学の初年次教育(下欄参照)をもとにした教育改革プロセスで、2大学の教職員18名にインタビューをお願いしました。

多くの教職員が「どういう教育が理想なのか」「そのためにどういう体制がいいのか」「私たち(教職員・講師)は学生や教育に対してどうあるべきか」を自分に問い、行動に繋げていく経験や苦悩を語る。それも、テーマの性質上もあってか、みんな熱く語るのです。圧倒されました。

改革現場に携わった方の言葉を生で聴くほどインパクトの強いものはありません。質疑応答を通して、改めて「教育とはなにか。どういう教育がいいのか。学生に対して自分はどうあればいいのか」を考えるきっかけになりました。

 *初年次教育とは、おもに大学・短大1年生を対象とした教育。高校の学びから大学の学びへと転換を促すことがねらい。友達作り、図書館の使い方・レポートの書き方の習得など、さまざまな観点から実施されることが多い

2.自分の問題意識に対する軸ができた

これまで、本来学生が考えるべき問題にも講師が1から10まで答えたり、指示を出しても言うことを訊かないと、ヒステリックに学生を統率したりする光景を見ることがあり、その指導の仕方に疑問を感じていました。これが2つ目の問題意識です。

でも、もう彼らは大学生。社会人の一歩手前です。必要な時は叱ることもありますが、過剰な統率にならないように…と心がけていました。そんなふうに「学生に対するあり方」は自分なりに答えを持っているものの、周りのベテラン講師との感覚の差を思うと自信がなく、悩みました。

1つ目の問題意識(授業内容)も含め、2つの問題意識を考えるうえでダイレクトに影響したのが、先述した修論でのインタビューや、教育学を専門領域とする指導教官・児美川先生の著書論稿、修論を書くうえで読んだたくさんの文献でした。

たとえば、児美川先生の著書『まず教育論から変えよう~(略)』(2015、太郎次郎社エディタス)には、「小・中・高・大学の教育までが、過剰な『お世話モード』になってい」るとし、「こうした子どもと若者の育ちと教育環境の変化が、彼らから自律性や自主性を奪い、いわば『指示待ち人間』を育てている」とあります。学生との距離の取り方・あり方の大きなヒントになりました。

たくさん読んだほかの先生方の文献からも授業づくりや学生対応の参考になったものも多くありますが、ここでは紙面の都合上、割愛します。

学生との距離がよりよくなることで、リフレクションシート(授業後の感想文)に書かれる率直な意見や感想が増えました。用意した授業内容は、やはり大学院で学んできたことに影響されていますが、学生たちの反応を見て柔軟に内容を変更することもあります。2つの問題意識は両輪ですね。

卒業して2,3年目のいまになって2つの問題意識に対する解はわからないけれど軸ができ、試行錯誤する段階までようやく到達したところです。一緒に指導を受けた同期も同じように言ってました。

 

3.広く学ぶことが次につながる

私は小さいころからなんとなく「どうしたらうまく生きていけるのか。どうしたらいい人生になるのか」を考えているような風変りな子どもでした。

世の中には、よりよい人生にするための考え方やメソッドが数多くあり、いろいろと模索したことがありましたが、根本的な解決には結びつきにくいと実感しています。

一方で、キャリア教育について学んでいてふと気づいたのは、「キャリア教育やキャリアデザイン(学)はよりよく生きるためにどうしたらいいのかを考え、実践する教育だ」ということ。範囲があまりに広く深いので、いまも学びながらキャリア教育・キャリアデザイン(学)の魅力を伝える活動をしています。

そして、変化が多く、将来が見通しにくいこの時代を「どう生きるか」について、キャリア教育やキャリアデザイン学という視点から多くの人と一緒に考え、行動をサポートする人と場をつくることが、これから携わっていきたいテーマです。

そういえば入学時、児美川先生から「とにかく広く学びなさい」とアドバイスをもらいました。修論指導のスタートも同じようなスタイル(私たちの場合)です。それが1本の修論という「形」になりました。その指導の仕方を私もマネて、授業づくりやアドバイスに活かしています。

自分のライフキャリアデザインにも同じことが言えるのではないかと思っています。広く世の中のことを知り、そこから自分は何を感じ・考えるのか。広義の「社会理解→自己理解」を進めていくことがよりよいライフキャリアになっていくのだろうと解釈しています。

ここまで、私の社会人大学院の経験を2回に分けて振り返りました。大学院への進学を検討するための材料にはなりませんが、そんな感想を持った人もいるのだという程度で捉えてくださるとうれしいです。

次回は、大学院で学んだことをもとに取り組んでいる「大学キャリア教育講師の仕事」についてお伝えします。初回の記事にも少し掲載しましたが、次回はどんな授業を、どんなふうに作っているのかを書いてみます。

 

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/