「キャリア教育」ってなあに?(3) ―大学のキャリア教育授業はなにをやってるのか

2019年05月27日 野浪 晶子

前回の記事では、小学校から高校までに行われているキャリア教育を、「直接的キャリア教育」と「間接的キャリア教育」という2つの側面からお伝えしました。多くの方がイメージされている職場体験などの「直接的キャリア教育」以外に、日常の教育活動のなかで、「子どもたちが将来担っていく役割に必要な力を育成する(=キャリア発達を促す)」こと、すなわち「間接的キャリア教育」を充実させていくことが大切 です。

さて、今回の記事では、「インターンシップ」をメインに取り上げていきたかったのですが、4000字を越えてしまったため、まずは、その前提となる「大学におけるキャリア教育」だけをお伝えします(いつも計画不順でごめんなさい…)

1.キャリア教育とキャリア支援

前回の記事でも触れたように、小学校から高校までは、文部科学省が定めた「学習指導要領」に従って教育の内容が決まっています(私立学校は独自に決めることができます)。一方で、大学教育は学校教育法や大学設置基準などの法令によって定められています。

大きな特徴としては「3つのポリシー」があげられます。「3つのポリシー」とは、「ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)」「カリキュラム・ポリシー(教育課程の編成・実施の方針)」「アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)」です。2017年から各大学ごとに策定・公表が義務付けられており、大学の公式ホームページなどで見ることができます。大学キャリア教育も、当然ながら各大学が策定した3つのポリシーのもとで行われています。

また、大学のキャリア教育は、①「キャリア教育支援」と、②「キャリア支援」の2つにわけることができます。①は教育課程をとおして(つまり授業として)体系的に提供するもの。②は学生の“キャリア形成”をサポートするためのもので、学生支援部門等が行う単発の講座やガイダンス、就職支援(キャリアカウンセリング)などのことをいいます。

2. 人気の授業は、キャリア教育じゃなくてキャリア支援?

さて、2019年3月18日号記事でお伝えした「キャリア教育とは、人生の準備教育である(児美川孝一郎先生)」「変化が多く将来が予測しにくい時代を柔軟に生きていくための ”力” を育む」という観点は大学でも同じですが、実施されている授業内容にはどのように反映しているのでしょうか。

図1(便宜上、一部にアルファベットをふっています)は、教育課程内、つまり、授業として実施されているキャリア教育についてあらわしています。

出典:文部科学省(2017)「平成27年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)」

Cの「社会や経済の仕組み、消費生活の安定・工場に関する知識の獲得を目的とした授業科目の開設」やD「労働者としての権利・義務等、労働法制上の知識の獲得・修得を目的とした授業科目の開設」の実施率が高いと、上記の観点に即しているといえそうですが、全体と比較すると実施率は低いようです。

逆に高い実施率となっているのは、F「資格取得・就職対策等を目的とした授業科目の開設」。8割を超えていますね。同じくE「インターンシップを取り入れた授業科目の開設」も8割近くにのぼります。

インターンシップ関連の科目は、その多くが「授業への出席」「インターンシップの体験」「体験後のレポート提出や、体験報告会などで発表する」ことがセットとなることで「単位」として認められることが多いようです。

また、インターンシップに参加するための仕組みが、「実施企業を自分で探して応募する」という”就活に似た形式”をとっていることが多いため、授業内容は、「業界研究や企業研究の仕方」「応募書類の書き方」「自己理解の仕方」「ビジネスマナーの習得」など、「事前学習」に重きを置いたものが一般的。結果としてF「就職対策等の授業」に寄っているのも否めません。

従来であれば学生支援部門(おもにキャリアセンター)が行う②「キャリア支援」を、「授業科目」にしているのはなぜでしょうか。

日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、定員割れを起こしている大学の割合は、582校中210校、全体の36.1%にものぼります。以前より割合が下がっているものの、今後のさらなる少子化を考えると楽観はできません。

多くの大学が入学者確保のために講じる対策の1つとして、「就職実績をつくること」があげられます。キャリアセンターなどが行う就職ガイダンス等は任意参加の要素が強く、支援が必要な学生ほど参加しない傾向があります。

授業科目として単位化し、学校によっては必修科目とすることで、就職率のアップにつながる可能性が高まる…という大学側の事情もはらんでいるのですが、結果的に大学キャリア教育はキャリア支援サイドのみ肥大化して捉えられ、大学の生き残り作戦の ”道具”  となってしまったともいえるでしょう。

 

3.「自己理解」「社会理解」をどのように解釈するか

広義の大学キャリア教育を考えるうえでの重要なキーワードに、「自己理解」「社会理解」があります。「自己理解」とは、自分の経験から長所や特徴を理解したり、価値観を把握したりすること。「社会理解」とは、社会の仕組みや業界・職種・企業研究の仕方を理解すること…と、社会理解についてはやや限定的に考えられることがあります。就職内定を射程に入れた授業は、とくにこの解釈が多いように感じます。

「キャリア教育は人生の準備教育」という視点から考えると、「社会理解」とは、生き方や働き方、人の考え方の多様性、職業、社会の仕組みなどを広く理解しておくこと。学部の学びも当然「社会理解」の範囲です。「自己理解」とは、自分の経験から特徴や価値観などを把握していくこと。この「経験」のなかに、社会理解をしていった “過程” が入っていく。そのうえで、それを言語化して表現していくためのスキル向上支援が②「キャリア支援」だと考えています。

ただ、社会理解の考え方が限定的になる理由もわかるような気がします。学生は、大学入学までの間に豊かな社会理解ができているかというとそうではない。でも時間もないし入学者確保の事情もある。そこでキャリア支援に比重を置いたミニマムな自己理解・社会理解の授業を展開している…と捉えています。

「なにを自己理解とし、なにを社会理解とするのか」という解釈は、大学や学部によって、あるいはキャリア教育の授業を担当する”担い手”によってもさまざまです。それぞれに理念をもち、趣向を凝らした授業が作られ、方法を模索しています。図1はその表れともいえるでしょう。とはいえ、それがかえって学生の自己理解・社会理解を狭めてしまっていないか、いま一度点検する時期に来たのではないかと思っています。

次回は、今回たどりつけなかった「大学のインターンシップの理想と現状(仮題)」についてお伝えしますね。

 

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/