多様性の時代に最適化したキャリアコンサルティング(1)

2019年04月29日 小川 圭

-よし・あしを脇に置く/望む成果と望むプロセス-

突然ですが、私の職業は「組織開発コーチ&コンサルタント」です。一言で表すならば、「私たちにとって何が正解なのか」ではなく、「私たちはいま、何が正解であると決めるのか(それはどうしてか)」ということを考える機会を提供し、考えたことを実行に移すためのお手伝いをするということが仕事です。

「考えの中身そのもののよし・あし」を判断しようとすることから自由になることを大切にしています。「よし・あし」の根拠は、人それぞれがめいめい積み上げた体験情報に他ならないからです。別な身体を使って別な人生を生きてきた人同士が、「よし・あし」をピタリ重ね合わせようというのは、もうこれは、神業に近い。不可能に等しいことなのですから、そんなことに挑むのは不毛だし止しておこう!というお話を、いつもさせて頂いています。

その代わりに、持っている体験情報を共有し、お互いの抱える「よし・あし」の拠りどころが一体何であるのかを分かち合った上で、「いま、私たちにとって最も生産的な選択は何か?」ということに合意するための、議論の枠組みを提供します。特定の、(誰かにとって)好ましいとされる結論に向かって議論を誘導するのではなく、「そこに居るメンバー全員が喜んで迎え入れることができる生産的な答え」をつくり出し、それを「正解」にしよう。そんな仕事をしています。

よし・あしを脇に置く

自分自身と上手に手をつなぐには、ちょっとしたコツが要るのかもしれません

キャリアコンサルティングを考えるうえでも、来談者が持っている「べき論」や「思い込み」から自由になってもらうプロセスが、コンサルティングのスタート地点であると私は考えています。その人にとって生産的とは限らない固定観念が、面談の場で垣間見えることは、珍しいことではないように感じます。

私たちキャリアコンサルタントは、「来談者が自分の未来の可能性を最大限に探求した後で、いま選びとる選択肢を絞り込んで、決める」という思考のプロセスを支援するエキスパートである必要があるでしょう。自分で自分の可能性を狭めてしまっている思い込みがあるとしたら、それは何処にあるのかが重要な問題です。

現状分析から入っていくやり方や、情報提供から入っていくやり方は、この「思い込みの枠」の中でしばらく対話を続ける状態をつくり出しやすく、しばしば本質にたどり着かなかったり、遠回りになったりするように感じます。「よし・あし」を考えているうちは、次の一歩の方角が決まらないものです。未来志向のコンサルティングでは、「どうなりたいのか」を必ず明らかにする。

Can(何ができる?)”や”Must(何をしなければならない?)”はE.H.シャイン博士が定義したキャリアの三要素でもあり、来談者が向き合う必要がある観点なのですが、それらは、”Will(何がしたい?)”―残るひとつのとても大切な要素を覆い隠してしまう力もなかなかに強いということを、キャリアコンサルティングの現場で難産を経験したことのある人はよくご存知ではないかと思います。

Willだけに固執するあまりCanやMustを見失うケースが少ないわけではなく、「逆もまた真なり」とも言えるのですが、ことWillに関しては、心が閉じた状態ではうまく明確化されない。明確化されていないWillに内側で影響され、制限された思考によって導き出されるCanやMustの現在地は、本人にとって非生産的な情報になっている可能性が高いのです。

飲食店ではメニューを差し出し、「どれになさいますか?」と訊ねるのが一般的です。一方、美容室に行くと、まず、「どのようになさいますか?」と訊ねられることが多いですね。何がこの違いを生み出しているのでしょうか?理想的なキャリアコンサルティングの入り口のあり方に近いのは、どちらの質問でしょうか?それはなぜでしょうか?

望む成果と望むプロセスの両方を明らかにする

このキーの感触や打鍵音がたまらないんだよねぇ!←その人にとって一つの真実

思い込みによる制限を探るうえで重要な前提の一つが、「人は仕事の成果とプロセスの両方に充足を求めている」ということです。

さる辣腕のITエンジニアと話したときのことです。彼が言うには、

「(システム)エンジニアには二つの人種が居る。一つは知恵を絞って望まれた結果をつくることに喜びを感じている人、もう一つはパソコンを触っている時間そのものに喜びを感じている人」とのこと。そして、頼む仕事を間違えるとお互いにとって悲惨な結果に至る、という話でもありました。

転職を伴うか否かにかかわらず、キャリアの転機にある人々の選択を支援するためには、二つのことが「本人にとって明らかに」なることが大切です。

・その人は、仕事の中と外で、どのような成果を勝ち取りたいと願っているか

・その人は、仕事の中と外で、どのようなプロセスを過ごすことを願っているか

来談者の抱える「プロセスへの執着」について、私たちコンサルタントは、「本人が喜んで手放せると感じたときにだけ、自然に手放されるもの」であると認識しておく必要があると、私は考えています。それは、決して私たち本人以外の人間が軽んじてはならない、その人にとって大切なものである一方で、明日の朝にはコロリと180度変わっているかもしれないものです。

ビジネスの現場で成功を収める人物は、成果に対して強いコミットメントを発揮し、プロセスに対して柔軟な対応力を持っている人物であることが多いでしょう。どんな業種・業界であれ、「結果にこだわり、手段を選り好みしない」人がうまくいく可能性が高いことは、おそらくかなり真実に近い。

しかしこのとき、プロセスにこだわりたい感情を「よし・あし」の「悪し」、あるいは「非生産的なもの」と早々に切り捨てようとしてしまうのは、いささか短絡的であり、その人にとって本当に望ましい結果を生み出さないことが多々あることを、私は様々な場所で見てきました。

手放したふりをして無理矢理押し込めた感情は、満たされない欲求として常にくすぶり続けます。そして、その人がその人の人生に向かう姿勢、すべての意思決定に対して影響を与えています。四六時中パソコンに触っていたいと願っている人から、他の誰かがパソコンを取り上げてはいけない。圧をかけてパソコンから遠ざけるのではいけない。

「パソコンに触っていることそのものを、幸せと感じている自分がいるんだなあ」と、知っておくことがまず肝要なのです。そして、他の何をそれと同時に手に入れたいと願っている自分がいるのか、それを知ることが肝要なのです。自分の願望を客観的に知覚し、その願望がそこにあることを受け止めることから、深い自己理解と自己承認に依って立つキャリア選択がスタートします。

善いと思い込んだ願望には固執したくなるし、悪いと思い込んだ願望は隠しておきたくなるのが、人間心理というもの。而して、どちらもその人の重要なパーツなのです。「よし・あし」を一旦脇において、すべての自分の願望をテーブルの上に乗せたとき、自分という人間が、内側と外側に発揮し得る最大の生産性が何なのかを明らかにする準備が整うでしょう。

次回は、プロセスから幸福感を享受しようとする欲求を、どのように生産的にセルフ・マネージするか?ということをテーマに書いていきたいと思います。さて、本州ではそろそろ桜の季節ですね。

この一連の記事は、現代日本におけるキャリアコンサルティングの望ましい姿を、私なりに明らかにしていくことを通して、キャリアコンサルタントを志す同志たる皆さんの、様々な考えや取り組みにおいて、価値観を増して頂きたいという目的のもとに書いています。価値観を「入れ替える」「改める」あるいは「植え付ける」のではなく、「増す」ということが狙いです。

小川 圭

組織開発コーチ&コンサルタント/ワーク・ライフバランスコンサルタント 1979年北海道夕張市生まれ。映像・音響のクリエイターと研修講師のパラレルキャリアを、二十代から約十年間過ごす。現在は、株式会社コム 代表取締役首都圏事業担当として、企業・自治体等のコーチング導入研修やリーダー・マネジャー・メンター育成のための研修、組織開発コーチングを主な専門領域として活動している。働き方改革時代のダイバース・リーダーのためのプロ・コーチ養成講座を、地元北海道と東京の2拠点で開講中。現在一児の父。 http://com-consul.com/