「キャリア教育」ってなあに?(2)― 学校で行われている“2つの”キャリア教育

2019年04月22日 野浪 晶子

*お知らせ 以下の点について更新しました
①リンク部分が他の文字色(黒)とほぼ同色(グレー)の設定だったため、他色に変更しました
②「図1」の表記がなく、「実施形態」が記載されていないものが掲載されていたため図表を取り替えました


前回の記事では、誤解の多いキャリア教育の説明を、思い切って(というか、乱暴に!?)2つの本質に絞ってお伝えしました。

今回は、学校 ― 小学校から高校まで ― で行われているキャリア教育についてお伝えします。本当は大学まで入れたかったのですが、書いてみたら思った以上に膨大な量となったので、大学で行われているキャリア教育(おもに “インターンシップ” について)は次回の記事とさせていただきますね。

では、最初に大枠をおさえておきましょう。
公立の小学校から高校までは、文部科学省が定めた「学習指導要領」に従って教育の内容が決まっています。さらに、小学校・中学校・高校と「発達段階」に従って、キャリア教育の実践形態も異なってきます(図1参照)。なお、私立の学校は、このしばりがないので独自に決めることができます。

学校で行われるキャリア教育…というと、イメージするのは子どもたちが企業や団体組織に行ってなにかを見たり体験したりする姿ではないでしょうか。

学校でのキャリア教育には大きく分けて2種類あります①直接的なキャリア教育 と、②間接的なキャリア教育 です。①は、職場見学、職場体験など、仕事や職業の現場に直接触れさせることをいいます。よくあるイメージはこちらかもしれませんね。②は、学校の授業や学校生活のなかで行われるキャリア教育をいいます。

まずは、①直接的なキャリア教育について、簡単な事例とともに見ていきましょう。

1.小学校から高校までの直接的なキャリア教育

①小学校のキャリア教育

小学生のキャリア教育としては、「職場見学」が多いようです。たとえば私の地元近くの小学校では、3年生が特産品であるサトイモ農家さんを訪ね、農家の仕事を中心に、やりがい・苦労などを訊く…というプログラムが作られていました。

また、別の学校のプログラムでは、地元の商工会議所の協力のもと、6年生が夏祭りに出店を出して販売し、お金の流れを学ぶプログラムがあったり、市内の企業を訪問して実際にどのように製品ができあがっていくのかを見学&インタビュー。後日、その体験を自分たちでまとめて発表する、というものもありました。

②中学校のキャリア教育

中学では「職場体験」が行われています。平成29年度の公立中学校での実施率は98.6%(国立教育政策研究所・2019年3月9日報道発表)とほぼ完全実施に近い状態です。中学校では原則的に全員参加となっているからなのですね。

事例をあげてみましょう。「スーパーマーケットでの5日間職場体験」では、実際に品出しや値付け、接客などを経験。「回転すし店」でのバックヤード体験、鉄道駅校内でのアナウンスや発券業務など、ネットで調べると成果報告も含めてたくさん出てきます。

③高校のキャリア教育

高校では「インターンシップ」が導入されています。インターンシップとは、「就業体験」のこと。実際に企業を訪問して仕事を体験します。勤労観や職業観を醸成することは中学校と変わりませんが、将来進む可能性のある仕事や職業に関連する活動を試行的に体験し、進路選択の手がかりにすることに重きを置いています。

公立高校での「実施率」は84.9%(同資料)ですが、「体験者率」でみると、職業に直結する学科の生徒さんが7割弱と多いのが特徴です(普通科は2割程度)。高校は任意参加なのですね。

調べてみると、こんな事例を見つけました。地域連携による課題探究学習をもとにしたキャリア教育プログラムです。

1年次に地元地域の概要について事前学習したのちに地元企業を見学。2年次に社会に適応する自己の課題、および地域の課題や展望について理解を深める。3年次で地域の未来に対する課題に対し、テーマを設けて提言する、というものです出典:リクルート進学総研(2018)「周辺町村との連携による総学を軸に 地域社会に貢献する意欲と能力を育成」、Career Guidance 2018.OCT.Vol.424

自分たちの住む地域社会を体験的に理解したうえで、社会に適応していくにあたって自分の課題はなにかを考える機会を設けており、「社会理解」と「自己理解」の両輪がそろっていますね。私の意見ですが、キャリア教育の本質を捉えている活動であると感じました。

しかし、本記事では、「どのように自己について考えさせるのか」「『社会に適応する』ことについて、『社会』とはどこまでを指し、『適応』とはどう定義づけているのか」が書いておらず、残念…ここがとても気になります。

④「直接的なキャリア教育」で大切なこと

このような職場体験について児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部。専門領域はキャリア教育、青年期教育)は、「職場体験をやりっぱなしにせず、生徒たちの学びや気づきの発展と定着を促すことが大事」と主張されています(参考:児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』ちくまプリマー、筑摩書房)。

せっかくの職場体験です。行きっぱなしにせず、事前学習・事後学習などの機会を通して”自分ごと”として捉えていく「しかけ」が必要です。それを積み重ねることで「社会理解」と「自己理解」を同時にすすめ、進路選択時の要にもなっていきます。体験を通して自分のことを考える機会を設けている上記の高校の「しかけづくり」は、小学生のころから取り入れられるといいだろうなぁと感じます。


2.間接的なキャリア教育とは

直接的なキャリア教育は、子どもたちにとってはいわば「非日常」の世界です。一方、学校における間接的なキャリア教育とは、日常の教科活動や学校生活の中で実施されるもの です。

たとえば「社会の授業で、あるテーマについてグループで調べる」場合は、授業で扱う内容が「社会理解(社会の広がりを知る)」に直接的につながるだけでなく、「調べる」過程で他者と協働したり、調べ方について広く学んだりすることも想定できます。また、クラスの係活動や給食当番、クラブなどの学校生活も同様です。

 *この事例として、少し古いですがこちらの記事がわかりやすいのでリンクしておきます。学校独自に「身に着けたい力」を設定しています。この記事ではキャリア教育を「直接的・間接的・日常的」の3段階に分けていますが、私は間接的と日常的を1つにして捉えています(参考:千葉県立柏市立柏第三小学校(2010)「学校教育活動全体を通したキャリア意識の形成」、ベネッセ教育総合研究所(2010)「特集第6弾 生きる力を育てる共育力 ~家庭の学習支援力を考える~、2019.4.8閲覧)


3.キャリア教育は、”思い出づくり” ではない

前項を読んでいただいたみなさん、「なんだ、そんなこと自分たちが子どものころにやってたことじゃん」って思いませんか?

そうなのです!
逆にいえば、キャリア教育とは、新しい教育でも、新しい分野でもありません。では、一体なに??

前回の記事では、キャリア教育の2つの本質の1つに、「役割」というキーワードをあげました。

「キャリア発達とは、社会の中で、自分の『役割』を担えるよう成長すること。」(出典:前掲書・児美川2013)

結局のところ、日ごろ行われている教育・行っている教育を『キャリア教育の視点』で捉え直し、その教育活動が子どもたちの将来担っていく役割に必要な力を育成することにつながっているかを意識して実施していくこと―  これがキャリア教育の本質を捉えた活動なのです。

オトナは「子どもたちに有効なキャリア教育をするには、どのような“イベント”がいいのか」と考えがちです。しかし、大学生となった彼らに当時のことを訊いても、せいぜい「思い出」としか残っていません。これを「社会理解」と「自己理解」につなげていくためには、児美川教授の言うとおり生徒たちの学びや気づきの発展と定着を促す「しかけ」が必要なのですね。(←学校でのキャリア教育としてお伝えしましたが、ココ、ご家庭でも同じです♩)

キャリア教育について、ここまで2つの本質と、小学校から高校までで行われていることをお伝えしてきました。紙面の関係もあるので、事例はほんの一例です。検索すると膨大な量が出てきますので、ぜひ調べてみてください。

次回の記事では、大学生のキャリア教育(おもにインターンシップ事情)と、本記事で何度か繰り返している「社会理解と自己理解」についてお伝えします。

それでは、また♪

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/