「キャリア教育」ってなあに?(1)―その本質を2つに絞ってみよう

2019年03月18日 野浪 晶子

「キャリア教育」という言葉を耳にしたことがあっても、それが何かと聴かれると曖昧…という方が多いのではないでしょうか。そこで、キャリア教育とは何かについて2回に分けてお伝えしていきます。(2019.3.10執筆)

「キャリア教育」ってなあに?

「キャリア教育とは何か」をお伝えする…とはいえ、たくさんの先生方のご著書を差し置いて、野浪がのうのうと語るには100年早い。

さらに、キャリア教育を「正しく」理解してもらうには、もう少し紙面が必要ということもあるので、 ここはキャリア教育を理解するための本質をぐぐと2つに絞り、私の院生時代にご指導いただいた児美川孝一郎先生(法政大学キャリアデザイン学部教授)の言葉を借りながらお伝えしていこうと思います。

本質① 人生への準備教育?

キャリア教育とよく間違えられるのが「就職準備教育」=大学生が就職活動で企業の内定を勝ち取るための教育(業界・企業研究、履歴書の書き方や面接指導など)…ですが、

それ、ちがいます!

まず、「キャリア」という言葉は、日本では”仕事”の履歴を意味する「職歴」と訳されることが多いのですが、キャリアとは、仕事も含めた「人生全体」を指します。

アメリカのキャリア理論家であるドナルド・E・スーパーさんは、「キャリアとは、キャリアを人生のある年齢や場面のさまざまな役割(ライフロール)の組み合わせと定義」し、「人生全般にわたり、社会や家庭でさまざまな 役割 の経験を積み重ねて、初めて自身のキャリアが形成される」と考えました。この考え方を念頭に置いてくださいね。

では、「キャリア教育とは?」という問いに対する端的な答え …児美川先生の伝え方を見てみましょう。

「キャリア教育とは、人生への準備教育」

引用:児美川孝一郎監修・野浪晶子著(2017)『キャリア教育の”ホント” ―誤解の多いキャリア教育を、正しく理解するために―』、一般社団法人 日本キャリアパスポート協会


「人生への準備教育」…とはどういうことでしょうか。もう少し詳しく見ていきましょう。

現在、私は40代半ば。第2次ベビーブームで子どもの数が多く、受験戦争の激しい世代でした。その親世代が過ごした社会は高度経済成長に支えられ、「一流の学校に入れば → 一流の企業に就職できる → 幸せな人生」という考え方が、わりと一般的になっていたのではないかと思います。

しかし、ご存知のとおり、バブル経済崩壊後は大手企業が相次いで倒産し、学歴に関係なく就職難の時代に突入。グローバル化や技術革新が進む中で、非正規雇用枠も増大。その一方で、働き方・生き方に対する価値観も多様化。

ライフキャリアを自由にデザインする楽しみや喜びもあるけれど、逆にどうすれば安定した将来が得られるかは、誰にもわからない時代となったわけです。ある意味、何をもって「安定」というのかも人それぞれですよね。

そんな時代を柔軟に生き抜いていくためには、親や教員などが子どもの歩く道を整えてあげるのではなく、子ども自身がどんな道でも歩いていける術(すべ)を身に着けておく… このような考えが、「人生への準備教育」という言葉に詰まっています。キャリア教育はその発想に立って、子どもの発達段階に合わせて各学校で取り入れられている「はず」です。

子どもたちが歩いていく道は、安全な道ではないかもしれません。石が転がっていて、つまづいたり転んでしまうこともあるかもしれない。万が一ケガをしたらどうしたらいいのか、つまづいたことをどう捉えるのか… また、歩き続けるだけでなく、時には立ち止まったっていい。そして、このような道を生き抜いていくためには、様々な力が必要です。

つまり、変化が多く将来が予測しにくい時代を柔軟に生きていくための ”力” を育む。これがキャリア教育の考え方の一つです。

その”力”って、すんごく幅広いんじゃないの?と思いますよね(笑)

その力のモデルとして、文部科学省では、「生きる力」出典:文部科学省 中央教育審議会・答申 (1996)「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)が教育の新たな目的の一つとして掲げられているほか、「キャリア教育を通して身につけさせたい能力」として、下図を掲示しました。

そのほか、各省庁それぞれが「〇〇力」を策定。なかでも経済産業省「社会人基礎力」(2006)は、近年になって企業や大学などでも認知されるようになりました。 児美川先生ご自身も、「キャリア教育を通して身につけさせたい力」として5つ掲げています(前掲冊子をご参照ください)。 

「社会的・職業的自立、社会・職業への円滑な移行の為に求められる力 」 出典: 中央教育審議会(2011)「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」

本質② 役割を全うしようとする意識

もう一つの本質は、「役割」です。スーパーさんの定義にも言葉が出てきましたね。

ところで質問しますが、この記事を読んでいるみなさんは現在、どんな役割をもっていらっしゃいますか? 

会社では課長だけど、あるプロジェクトのトップもやっているし、部下のいい相談役も兼ねているかもしれないですね。では、プライベートも見渡してみて下さい。ふむふむ…父であり夫であり、自治会では書記? …少し考えただけでも、オトナの私たちはいろいろな役割を同時に引き受けていますよね。

このように、社会生活の中でいろいろな役割を担っていくことを「キャリア発達」と言います。ここで児美川先生の言葉を引用すると、

「キャリア発達とは、社会の中で、自分の『役割』を担えるよう成長すること。それを自分の『生き方』として統合していけること」

引用:児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』ちくまプリマー新書、筑摩書房

となります。

これって、たとえば小学生だったらクラスで給食係や飼育係があてはまるだろうし、高校生・大学生だったら部活やサークルの役職もそうですね。そういう役割を、責任をもって全うしていく。もちろん、学校現場だけではなく、小さい子であれば家庭で役割を担ってもらうことも有効です。私が小さいときは、「自分の上履きは自分で洗う」「食べ終わった食器は台所まで片付ける」ことが決まっていましたが、考えてみるとこれも立派な役割だったのだなと思います。上履き洗いはシャボン玉を作って遊びながら行うので、1回につき2時間ぐらいかかっていた記憶がありますが…(笑)

役割を担う過程で得られる成功体験や失敗体験を積むことも大事なことです。変化が多く、先行きが不透明な時代であれば、特に失敗体験を積んでおくことは重要ではないでしょうか。

引用した先生の言葉にある「『生き方』として統合する」とは、その役割を生きていくうえで、自分ごととして向き合っていくことを指していると私は考えています。 役割によっては、その人のアイデンティティにもなったりするもの。逆に、その役割と本来の自分が一致しないことに悩む方がキャリアカウンセリングにいらしたりすることもあります。

また、社会はたくさんの人の ”仕事” でできている、と言うこともできます。 どんな仕事を=どんな役割をどんな割合で担っていくか…というのは、オトナの私たちにとっても大切な問いですね。



では、その本質を知ったところで、一体どのようなキャリア教育が日本では展開されているのでしょうか。次回の記事では、小学校から大学までのキャリア教育がどのように実践されているのかを見ていきましょう。

キャリア教育について「もっと知りたい!」という方は、ぜひ、児美川先生の著書『キャリア教育のウソ』 (2013年、ちくまプリマー新書、筑摩書房)をご覧ください。

この先もお天気が周期的に変わっていくようです。ご自愛くださいませ♩(2019.3.10執筆)

野浪 晶子

日本キャリアパスポート協会理事。大学非常勤講師・キャリアコンサルタント資格取得講座講師など。CDA、キャリアコンサルティング技能士2級。法政大学大学院キャリアデザイン学修士。 民間企業人事職を経て現職。大学のキャリア教育実態に悩み、児美川孝一郎教授(法政大学キャリアデザイン学部)の著書『キャリア教育のウソ』を読んだことがきっかけで大学院へ進学。入学後、児美川教授に師事。協会では、誤解の多いキャリア教育を正しく伝えるためのセミナーや、企業研修を担当。私生活では自宅で母を介護。かなりそそっかしい性格。 https://www.career-passport.net/