「成長を出し続けられるビジネスパーソンを目指して」②
みなさま、こんにちは。キャリアコンサルタントの松尾です。今回は前回の続き、キャリア形成についての代表的な考え方三番目の「市場原理」からご説明をしたいと思います。
市場原理とは「厳しい競争社会を生き抜いていくスキルを身につける」という考え方です。これはスキルを身につけようと資格の習得などに取組むというもので、それ自体は望ましいものと言えます。
しかしながら、この考え方が行き過ぎると、資格ひいてはポストといった外的基準がキャリアを形成していく上での、モチベーションとなってしまい、キャリアを損得勘定、あるいは、表面的な基準で考えてしまう懸念があります。
そもそもキャリアは長期にわたって形成していくものであり、現時点での表面的な基準のみで損得を考え、キャリアを判断してしまうことは、短絡的であるといえるでしょう。

前回のマッチング、本人主義、そして市場原理の三つは「成長を出し続けられるビジネスパーソン」のコアにはなりにくいものです。「自律的なキャリア」を目指すには次の、キャリアコンピタンシーが必要になってきます。
変化の激しい時代には自身の仕事における専門性を磨くだけでなく(担当業務固有の知識とスキル)、できる限り幅広く仕事に対応できるための基礎的な知識、スキルを身につける(ビジネスパーソンに共通の知識とスキル)ことが重要になります。
この、キャリアコンピタンシーとは、「変化する環境に柔軟に対応しながら、自分のキャリアや人生を切り開いていく能力や習慣」を身につけるという考え方です。
これは学業や仕事に対する、普段の姿勢や人との付き合い方、情報収集の習慣など、日常に発想や思考、行動の特性、あるいはそれによってスキルが蓄積し、結果的に変化があっても自分らしいキャリアや人生を切り開き続けることができる確率が高まるという考え方です。
自分らしいキャリア、生き方を切り開く上で、最も現実的な考え方であり、このような能力や習慣を若いうちに見につけておくことが重要です。
例えば、実際にはどんな事を行っているのか。
一つ具体例をあげてみましょう。
皆さんスマホを持っていらっしゃると思いますのが、「gacco」はご存知でしょうか。
これは、大学教授陣による本格的な講義を、誰でも無料で受けられるウェブサービスで、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)およびFLIT(反転学習社会連携講座)と連携して推進しているgaccoプロジェクトにより、ドコモgacco社が提供しているものです。
ある企業ではこの『gacco』 という「反転学習」のツールをビジネスパーソンとして必要な教養学びに使用しています。この反転学習の仕組みを取り入れている企業は増えてきているようです。もちろん、個人でも自由に参加ができるツールです。
「変化する環境に柔軟に対応しながら、自分のキャリアや人生を切り開いていく能力や習慣」を身につけるというのは、自分自身に向き合う仕組みを見つけ出すことから始まって言うのかもしれません。
さて、キャリアを形成していく上での代表的な手法としては「マッチング」と「継続的プロセス」の2つがありますが、今日のように変化が激しい時代にあっては、仕事に就いてから自分にあった仕事のスタイルへとジョブデザインを自律的に仕掛けていく(継続的プロセス)の方が重要な意味を持つと考えられます。
この継続的プロセスの代表的なものがスタンフォード大学教授のクランボルツ教授が発表した、「プランドハプンスタンスセオリー」という言葉で、ご存知の方もおられるかも知れませんね。

クランボルツ教授によれば、自分の意思で比較的転職が容易なアメリカにおいても個人のキャリアの大半は偶発的な出来事によって左右されていることが証明されています。さらには常に前向きでポジティブシンキングを持って新しいことにチャレンジし、自分のキャリアについて柔軟に考え続けるプロセスを実行できる人が結果として自分に都合の良い偶発を引き起こし、キャリアの満足度が高いことも証明されています。
つまりキャリアは偶発の出来事によって左右されることから、自分のデザインをした通りのキャリアを形成していくことは困難ではあるという現実、これを前提に立ちつつも、自分の思考や行動によって、良い偶発的な出来事の発生確率を高めることができ、これによって、キャリアの満足度を上げることができるとされています。
<この連載は2016.3.13 3.27@河合塾KALS大阪校でのセミナー講話内容に加筆修正した内容です>