現代日本のキャリアコンサルティング

2019年02月18日 小川 圭

キャリアコンサルティングの今昔

我が国における「キャリアコンサルタント」は、平成28年に登録制国家資格となりました。 私たちキャリアコンサルタントは、”労働者の職業の選択 、職業生活設計、職業能力の開発および向上 に関する「相談に応じ」、「助言及び指導を行う」ものである” と定められています。

さて、私がキャリアコンサルティングの学びの門を叩いてから、十年以上の月日が流れました。キャリアコンサルタントに求められる専門性のあり方は、この十年だけでも大きく変化していることを感じています。 今昔問わず、キャリアコンサルティングのもっとも輝かしい花形は、転職支援や就労支援―つまり、働きたい人と雇いたい人のマッチングの領域にあり、そこでは

・何の仕事をするのか(What?の話)が大切で、
・それをいつどこでするのか(When?Where?の話)が、導きたい結論になります。

その結論が働きたい人と雇いたい人の両方にとってハッピーなものになるかどうかを決定する大きな要因は、一体何でしょうか?  

働きたい私は、どのようなことができるのか/できるようになるのか?(How?の話)
・雇いたい我々は、どのような待遇を提示できるのか?(How?の話)


このふたつのHowをどれほどマッチングできるかということに、働き手側個人の「それなりの強度と持続性を備えた動機」が乗ってくれば、キャリアコンサルティングはうまくいく―歯に衣着せぬ私の正直な意見として、少なくとも十年前の日本の転職・就職市場においては、これがまだ、真実であったように思います。

現在とはどのような時代?

さて、現代においてはどうでしょうか。現代とはどのような時代なのでしょうか? 社会とビジネスのしくみは日増しに複雑化・多様化し、世の中の変化のスピードはさらに著しいものになってきています。我が国の生産年齢人口比率は6割を下回り(2018年では59.77%)、時代は働き手不足の様相を呈してはいるのですが、その一方で、ロボットやAIによる業務自動化が業種業態を問わず急速に進んでいます。 長年、私たち日本人の職業生活設計の強固な前提となっていた「年功型賃金」と「終身雇用」のシステムも、事実上終焉へ向かっていると言って差し支えないでしょう。それらの概念を元来持ち合わせていない組織に属するビジネスパーソンの数も増えています。

”私には何ができ、どのように働きたいか?”×”我々はどのような人を雇いたく、その人にどのようなキャリアパスを提示できるか?”

このような、働きたい人と雇いたい人との”How×Howのマッチングの話”について、「しているそばからその前提が揺らぐ」時代に突入していることをひしひしと感じます。私たちキャリアコンサルタントも、この話「だけを」していたのでは駄目だ、私は心からそう思います。

なぜ?を扱う専門家としてのキャリアコンサルタント

・なぜ働きたいのか、なぜ生きるのか、なぜこのキャリアになったのか(Why?の話)
・何のために経営しているのか、なぜ今あなたを雇いたいのか(Why?の話)


これは、Howの話よりも人や組織の内側に近いところで起こる、抽象的で、形而上的な、”why×whyのマッチングの話”です。不確実性の中を進み続ける現代において、キャリアコンサルティングの花形はこの領域へシフトしていくと言えるでしょう。「有益な情報提供」、つまり、HowからWhat、WhereとWhenの話―これは、AIがもっとも得意とする領域です。いずれこの領域は、コンサルタントの手を離れていくように思えてなりません。
キャリアコンサルタントが生身の人間であることの最大の価値は、Whyの領域を扱うことができる存在であるということです。 自明ならざる答えを磨き続けるために必要なものが、「問い」、つまり、「質問」です。

キャリアコンサルタントは「問い」の専門家

本当の支援とは、「謙虚に問い続けること」であり、コンサルタントの役割は、来談者に答えを提供する存在から、来談者が答えを自ら見いだせるように援助する存在に変化している―キャリア理論の大家であるエドガー・ヘンリー・シャイン博士がそのように論ずる通り、私たち現代のキャリアコンサルタントには、「問い」の専門家としての研鑽が求められていると、私は考えています。
この変容は、社会システムの複雑化と無関係のことではありません。誤解を恐れずに敢えて表現するならば、かつての社会は、今よりもずっと、単純で明確でした。コンサルタントにおいても、特定の業界における豊かな知識と経験さえ持っていれば、来談者に「解を提示する」ことが可能であり、また、それが求められてきた時代があったように思います。

現代は複雑です。コンサルタントの知っている、「コンサルタント本人にとっての正解」が、来談者の現在の環境においても正解に該当する、その可能性は、限りなく低いと言って差し支えないでしょう。正解は何なのかを探し出すことよりも、「何を正解とするのか、それはなぜなのか」を探求するプロセスを伴走する技量が、私たちが存在する意義となっていくでしょう。正解ではなくプロセスを提示する。この手法について、次回はもう少し論を深めてみたいと思います。

小川 圭

組織開発コーチ&コンサルタント/ワーク・ライフバランスコンサルタント 1979年北海道夕張市生まれ。映像・音響のクリエイターと研修講師のパラレルキャリアを、二十代から約十年間過ごす。現在は、株式会社コム 代表取締役首都圏事業担当として、企業・自治体等のコーチング導入研修やリーダー・マネジャー・メンター育成のための研修、組織開発コーチングを主な専門領域として活動している。働き方改革時代のダイバース・リーダーのためのプロ・コーチ養成講座を、地元北海道と東京の2拠点で開講中。現在一児の父。 http://com-consul.com/