「就職活動を通じて成長する」とはどういうことか?
就労支援講座の現場からの報告①

2019年02月08日 斉藤 淳郎

葛藤や悩みをもつ若者に、就職に向けての心構えや本質的なキャリア形成を考えてもらう

「先生、今年もしよろしければ、ウチの大学の講座、お手伝いにお邪魔してもよろしいでしょうか?」4年前に地方大学の就労支援講座で就職指導したTさんからそんな申し出があったのは、東京駅で食事を共にした時でした。

この大学では毎年2日間の講座を開催しており、終日開催であることやキャリア支援室の方とのリレーションが深いこともあって、卒業してからも入社後の連絡やメール、時には「上京しました!ゴハン行きましょう!」というお誘いをいただいています。訊けば就職先での悩みもあり、自分の原点に立ち返る時間を設けたいとのこと。ありがたいことと、即答で「ぜひおいでよ!」と相成りました。

2008年から高校や大学で就労支援講座の委託事業をお請けするようになって、今年でちょうど10年。その間、多くの生徒さん・学生さんに触れる機会を全国でいただくことができました。委託された講座は1日や2日間限りのものが中心、短いものではたった30分限りということもあります。キャリアコンサルタントとして、ファシリテーターや講師という役割を担い、限られた時間の中でどんな気づきや影響を与えるか。駆け出しの頃は全く考えられていなかったのかもしれないと思うこともありました。

葛藤や悩みをもつ若者に、集団講義の形式を中心にどう向き合い、就職に向けての心構えや本質的なキャリア形成を考えてもらうか。10年の間で少しずつですが、わかってきたこともあります。そしてそれは彼らの人生にとって、意外なほど大きな影響を及ぼしているのだと思うようになりました。私の担当コラムでは、その気づきを描けたらと考えています。

考える力が、具体性を「見えなくさせる」

キャリアコンサルタントとして、できることの1つは「物語を聴いていく」こと

Tさんは関西のご出身で、編入学で地方大学に来た方でした。編入学の学生さんというのは自分で考え行動する力がもともと強い傾向があります。当時の2日間の就労支援講座参加者の中では、とりわけ自身の履歴書づくりや自己PR等の言葉も力強く、まさに「優等生タイプ」。しかしながら、言葉にして話そうとすると緊張し、懸命に伝えようとするあまり、いま質問の何に応えているのか、考えが拡散してまとまらないことも多々ありました。講座の合間に行う面談で相談に乗る中、わずか30分足らずでしたが、頬を赤らめながら多くの悩みを打ち明けてくれました。

本質的な悩みに迫る中、「抽象概念化する自分」に気づいていきます。真面目に取り組めば取り組むほど、難しい言葉や抽象概念で自分を語ってしまうのです。「主体性」「積極性」「忍耐力」・・・考える力が強いからこそ生まれ出ずる言葉たち。しかし話に、根拠がない。良いことを言おう、魅力を高らかに謳おうとするがあまり、多くの学生さんが陥る罠とも言えます。具体的には?エピソードはある?へえ、そんなことがあったんだね。うんうん。興味深いね。少しずつ彼の物語が紐解かれていくたび、紅潮する顔とは裏腹に、自信を深めていく瞬間でもあります。キャリアコンサルタントとしてお手伝いできることの1つは、きっとこういう「物語を聴いていく」ことなのではないかと、近年とみに思うようになりました。

素直な自己開示が、できるようになれば

委託事業の中には「模擬面接」の時間が設けられているものが多数あります。面接というものに慣れることや、面接官と相互にコミュニケーションをとることを体験的に学習する機会として提供されますが、本質的に重要なのは、実は「自己開示」です。素直な自分の物語を述べ伝えることで、はじめて自分のありのままを相手に伝えることができる。しかし多くの学生さんたちは、懸命に伝えようとするあまり、用意してきた話を徹頭徹尾「覚えた通りに」話すということに終始します。無論それで伝わってくるその人らしさは一面的であり、素直な自分が表出したとは言えません。

Tさんも模擬面接を通して、様々なエピソードを語る練習をすることで、ようやく素直な自分を表現できるようになっていきました。自分の話をするということがどういうことなのか。体験することでしか、人はわからないのかもしれません。面接官役の私も、彼の物語を聴き入りながら、本当に感受性の強い、また仮説思考と実行力の高い彼の魅力に気づき、文字通り「仲良く」なっていきました。面接官とは、普通の人です。心を開くには、お互いにわかりあえた、という実感がやはり何より大切なのだと思います。

「自分の魅力」に、気づけますように

大手企業に内定したTさん。卒業生の1人として、何よりこの講座の受講経験者として、自己紹介と同時に講座の意義を語ってくださいました。「自分自身が成長する機会であり、それは自分の魅力をあらためて見つめなおすことにつながるんだよ」。講座の途中、学生の一人から質問が出ました。「自慢と自己PR、どう違うんですか」。そう、確かに感じますよね。つい4年前まで、Tさんもそうだったのですから。私の講座は、その誤解を解き、やっぱりご本人の物語を聴きたいという話から、今日も始まっていきます。では、その物語をどんな風に開いていくのか。そのお話は、また次回。

斉藤 淳郎

大学卒業後、情報サービス企業に約10年間勤務。人材教育などに携わる中でキャリアカウンセラー資格を取得。人生の転機が訪れ鹿児島県、静岡県にIターン。コピーライターやディレクターとして広告制作、企業や商品・サービスのブランディングなどに携わる一方、採用支援やキャリア形成支援、就労支援講座などの講師・ファシリテーター、キャリアカウンセラーにも従事。全国の高校・大学をまわる。現在は個人事業主・フリーランスとして活動中。